3.主要株主と投資動向
東京エレクトロン保有と社内持分で安定株主は厚い一方、株価は機関投資家の保有動向が鍵。
東京エレクトロンが33.82%を保有することに加え、東京エレクトロンデバイス社員持株会、東京エレクトロンデバイス役員報酬BIP信託、東京エレクトロンデバイス信託型従業員持株インセンティブ・プランといった、社員・役員の持分に準じる枠組みが株主構成の上位に並ぶ。これら3枠組みの合計は10.48%であり、東京エレクトロン持分と合わせると44.30%に相当する。安定保有が見込まれる株主層が厚い点は、同社の株主分布の特徴である。
一方で、FactSet集計ではインサイダー保有が34.99%、機関投資家保有が12.55%、浮動株比率が65.0%である。東京エレクトロンと社内持分が下支えとなる局面がある反面、株価のトレンド形成は、浮動株のなかで国内外の機関投資家保有がどの程度積み上がるかに左右されやすい。
上位保有には、国内では野村アセットマネジメント(2.29%)、アモーヴァ・アセットマネジメント(1.03%)、大和アセットマネジメント(0.99%)などが入り、海外ではThe Vanguard Group, Inc.(2.04%)をはじめとする運用会社が確認できる。保有の一部にはインデックス運用やパッシブ運用が含まれる可能性があり、指数連動のリバランスや資金フローが保有比率の変化として表れうる点には留意したい。業績局面の改善が進む局面では、ファンダメンタルズの変化と並行して、信託口を含む機関投資家の持ち高が増勢に転じるかが、株価の方向性に影響しやすい。
4.中期経営計画
VISION2030は増収より増益を明確化。重要な論点は利益率の戻りとPBの伸び。
同社は2026年3月期から2030年3月期を対象とする中期経営計画「VISION2030」を掲げ、最終年度2030年3月期の財務モデルとして売上高3,000〜3,500億円、経常利益率8%以上、ROE20%以上を目標に置いている。事業ポートフォリオは売上構成比でCN事業 15%、EC 75%、PB 10%、事業別の目標経常利益率はCN事業 12%、EC 7%、PB 10%とされ、計画の骨格は売上を伸ばしつつ、利益率を引き上げることにある。
重要なのは、目標値そのものよりもどこで利益率を作るかである。CN事業はサービスビジネス強化やソリューション領域の拡充を掲げており、ビジネスサイクルの谷でも粗利を落としにくい領域として位置づく。EC事業は成長マーケットへの注力とソリューション型ビジネスの拡大を掲げており、需要環境が持ち直す局面では、これらの取り組みが収益拡大に寄与する設計である。PB事業は10%の利益率目標が明示されており、従来の物販よりも付加価値を取りやすい領域を厚くしたいという同社の意図が読み取れる。
資本政策についても、VISION2030では成長投資(技術開発、事業拡大、社内外のDX、人材育成)を進めつつ、自己資本比率40%以上、ROE20%以上を目指し、適正な在庫水準の維持で財務の健全性を高める方針が記載されている。株主還元は業績に応じて実施としつつ、別途、配当性向は当面40%を目安としている。株価再評価のプロセスとしては、市場在庫調整の収束→利益率回復→還元余力の拡大、の順に進むとみるのが合理的であろう。
会社側は、2026年3月期の見通しとして、半導体および電子デバイス領域では市場在庫調整の長期化により期前半まで調整が続き、回復は期後半からという想定も記している。したがって、VISION2030の進捗を測るうえでは、(1)EC事業の市場在庫局面が想定どおり後半にかけて改善するか、(2)CN事業でサービス・ソリューションの粗利が積み上がっているか、(3)PB事業の比率と採算が計画方向に寄っているか、の3点が投資を考える上でのチェックポイントになる。
5.海外事業に関して
海外は補完だが、EC事業の実需に直結。為替と拠点網が利益の振れを決める。
同社の海外は海外連結子会社によるEC事業売上という形で存在感があり、2025年3月期は海外連結子会社の売上高が518億円、EC売上に対する比率が28.9%まで上昇している(前年差+4.4pt)。ドル建て売上高は339百万米ドル(前年差▲4.5%)と前年から減少しており、数量・単価・為替の組み合わせで見え方が変わる点には注意が要る。つまり海外は伸びしろというより、サイクル局面次第でEC事業の振れに影響しやすい領域として考えるべきであろう。
地域別売上高は、日本1,645億円、アジア(中国187億円、その他250億円)、その他80億円である。売上の過半は国内で、海外はアジアが中心となる。なお、地域別売上高は顧客所在地ベースで集計されるため、地域別の増減はサプライチェーンの配置変更等の影響を受けやすい。
海外は伸びしろというより、サイクル局面次第でEC事業の振れに影響しやすい領域として捉えるべきである。したがって、海外比率の高さを成長余地として語る前に、拠点網の空白や為替変動が業績に与える影響を点検する必要がある。顧客の海外生産移管により、営業拠点がない地域へ需要が移る、あるいは現地の制約で販売活動が難しくなる場合に業績へ影響が出得る。また輸出入取引や一部国内顧客との外貨建取引に伴う為替変動リスクがあり、急激な変動時は業績への影響が大きくなる可能性があるが、会社は為替予約や販売価格改定などで影響を最小化する運用を取るとしている。
国際事業の評価は海外比率が高いから成長余地が大きいという見方よりも、①EC事業の回復局面で海外連結子会社売上比率が維持・上昇するか、②米ドル円の変動が粗利率にどう出るか、③顧客の生産地シフトに対して拠点網と商権を追随できているか、を四半期で点検するのが要点である。
6.長期の業績
サイクルで業績は振れるが、収益力は底上げされており、論点は次の回復局面で収益性が再び高まるか。
同社の売上高は2016年3月期の1,178億円から、2023年3月期に2,403億円、2024年3月期に2,428億円へ拡大したが、2025年3月期は2,163億円とサイクル調整局面で減収に転じている。ROEもサイクル色が強く、2016年3月期の4.2%から上昇基調を辿り、2023年3月期に25.5%、2024年3月期に24.1%まで上がった後、2025年3月期は19.1%に低下している。
直近5年間の連結データでも、売上高は2021年3月期1,432億円から2023年3月期2,403億円へ伸長した後、2025年3月期は2,163億円へ減少している。利益面では、経常利益が2021年3月期46.2億円、2024年3月期139.2億円、2025年3月期114.1億円、EPSは2023年3月期294.8円、2024年3月期333.4円、2025年3月期295.7円と推移しており、調整局面の影響を受けつつも、利益水準は過去と比べて高いレンジにある。ROEも2023年3月期25.5%、2024年3月期24.1%、2025年3月期19.1%と低下しているが、過去の低ROE期と比べれば底は切り上がっている。
要点は、半導体サイクルによって売上が振れる一方で、2021年3月期以降に見られたように利益率が改善すると、ROEも一段高いレンジで回り得る体質に近づいた点にある。今後は市場在庫調整が終盤化する局面で、売上の戻りそのものよりも、粗利率と営業利益率がどの水準まで回復するかを、長期トラックの評価軸として置くことが重要である。
