エネルギー市場の新潮流とは ─OPECvs シェール、そして自然エネ─
昨年末、世界経済における石油価格、エネルギー市場の重要性が改めてクローズアップされた。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場(米国産標準油種WTI)は昨年6月末の高値1バレル=107ドル付近から同年12月後半の60ドル割れまで、ほぼ一本調子の下げとなった。
北米のシェール革命がその最大の要因であることは間違いなく、相場の下げを石油輸出国機構(OPEC)の主要国が主導しているという数年前までは考えられない話も伝わってくる。そしてエネルギーの将来はこうした化石燃料内の競合だけでなく、自然(再生可能)エネルギーの着実な増加にも影響を受け始めそうだ。
石油の歴史の新たな一章
OPECは昨年11月27日の総会で、生産目標を日量3000万バレルに据え置くことを決定し、原油価格の下落トレンドを決定づけた。総会で減産を主張したのはベネズエラぐらいで、北米のシェールオイルの急速な台頭に危機感を抱くサウジアラビアが据え置き決定を主導し、当時の価格水準ではコスト割れになるとされるロシアですらそれに同調したという。
この総会に先立つ11月14日、国際エネルギー機関(IEA)は石油市場月報で「石油市場の歴史の新たな一章が始まったことがますます明確になる中で、前の高値にすぐに戻る公算は小さいだろう」と結論づけた。
英誌エコノミストの昨年12月6日号の表紙と巻頭記事「アラブの族長対シェール」は現在の石油市場の構造をより印象深く表現している。表紙はアラブの族長と米国の石油掘削業者がそれぞれガソリンの給油ノズルを銃のように片手に持ち、これから決闘するかのように背中合わせに立っているイラストだ。同記事は「シェール業者とアラブの族長との間の競争が、世界を石油の不足から余剰に転換させた」と、石油市場に新時代が到来したことを要約する。
昨年後半の石油価格の40%超もの急落で、米国のシェールオイル開発業者の採算は悪化している。米エネルギー情報局(EIA)によると、米国の2014年の原油生産量はシェールオイルの増産により前年比16%増の日量860万バレルという予想だが、開発業者の採算は60ドル付近とされ、新たな開発の延期のニュースも伝えられている。
エコノミスト誌の前出記事でも、OPECの生産量据え置きは、サウジアラビアが「価格を下落させ、高コストの生産者を市場から締め出す」戦略に転換したことを示しており、実際、北米のシェールオイル関連会社の株価は下落しており、経営破たんが相次ぐ可能性があるという。一方で同記事は、「生産コストは過去1年間で、70ドルから57ドルまで低下した」との調査結果を紹介した上で、開発に何年もかかり、コストも巨額の在来型の石油と比べ、シェールオイルは1週間で掘削可能であり、技術革新により開発コストは低下していくだろうと強調。「長期的にはシェール産業の将来は確かだ」との見通しを示している。
ただ、シェール開発に使われる「水圧破砕法(フラッキング)」の大気や水質汚染への懸念は根強い。ニューヨーク州ではその使用の禁止方針を打ち出しており、シェール開発自体も禁止している。
発電コスト比較
シェール革命はさまざまな波紋を伴いながらも、米経済の復活に寄与し、石油消費国に恩恵をもたらしている。「ピークオイル論」、中国など新興国の成長神話などを根拠に長期的にも石油価格の上昇が続くというシナリオが崩れ始める中で、化石燃料から再生可能エネルギー(自然エネルギー)へシフトするというエネルギー市場の将来図も影響を受けるのか。
米老舗投資銀行ラザードが昨年9月に発表した、エネルギー源別のコスト分析の最新報告が興味深い示唆を与えてくれる。公益事業規模の太陽光発電コストは、過去1年間で約20%低下し、過去5年間の低下率は約80%に達するという。また、公益事業規模の陸上風力発電コストも、過去1年間で15%超、過去5年間では約60%低下したという。こうしたコストの劇的な低下により、「太陽光発電、風力発電は、補助金なしでも石炭や原子力のような伝統的なエネルギー源に対するコスト競争力は強まっている」という。
同リポートによると、補助金なし条件のコスト下限(メガワット時当たり)は、太陽光発電72ドル、風力発電37ドルに対し、原子力発電92ドル、石炭火力発電66ドルだという。これに米政府の補助金などを加味すれば、再生可能エネルギーの優位性がさらに高まるという。
日本のエネルギー政策の迷走
再生可能エネルギーのこうしたコスト低下について「21世紀のための自然エネルギー政策ネットワーク(REN21)」も毎年の白書とは別に13年1月に公表した「世界自然エネルギー未来白書2013(日本語版)」で、「自然エネルギーはあまりに高い」「政策支援があるから自然エネルギーは発展しているだけ」といった従来型エネルギー業界などからの批判に対する自然エネルギー推進派による反論を掲載している。
具体的には「自然エネルギーの政策支援への約900億ドルと比べ、化石燃料への世界中の助成金は2011年には5200億ドルを超える」とのIEAのデータに言及し、原子力への事故責任などの公的助成金の存在も指摘する。そして、「化石燃料や原子力に関連するほとんどの環境コストは従来の経済比較に含まれていない」と強調。「石炭、ガス、原子力への現在の助成金は大いに削減されるだろう」との風力産業専門家の見通しを紹介している。
14年6月発表のREN21の「自然エネルギー白書2014年版」の概要も紹介しておこう。
13年の自然エネルギーの発電容量は8・3%増加し、世界の発電容量の正味増加量の56%超を占め、世界の発電電力量の22%に達した。
特に中国での自然エネルギーの急増ぶりは目覚ましく、発電設備の新規導入量で、自然エネルギーが化石燃料や原子力の新規導入量を初めて上回ったという。また太陽光発電市場に限ってみると、中国は世界全体の新規導入量の約3分の1を占めトップだ。そしてこれに続く第2位は日本で、前年比80%増加したという。
日本では原発再稼働、再生可能エネルギーの固定価格買い取り(FIT)制度をめぐる混乱で、エネルギー政策は迷走しているが、世界は再生可能エネルギーへ着実にシフトしている印象だ。そして自動車市場では、ハイブリッド、電気、燃料電池が新しい駆動力として市民権を得つつある。石油市場におけるOPEC対シェールオイルのバトルは化石燃料産業による最後のあがきの始まりを予兆しているのかもしれない。