吉高の桜
写真・文/高橋 弘(巨樹写真家)
全国に数多い名桜、そのほとんどが長寿を誇るエドヒガンザクラの独壇場です。ヤマザクラも1,000年近くも生きる長寿の桜として知られていますが、桜の巨樹といえばほぼエドヒガンが上位を占めてしまいます。そんな中で一人気を吐くヤマザクラが吉高の桜でしょう。知る人ぞ知るヤマザクラの巨樹といえる存在です。
千葉県北総に根付くこのサクラは、まだ若々しいヤマザクラの巨樹で、ソメイヨシノの開花より遅れること約一週間、可憐なピンク色の花を咲かせます。ヤマザクラは開花と同時に葉を出すために、花の見頃が2~3日と極端に短く、満開の状態を見ることはなかなかむずかしいとされています。
吉高の桜の周囲には遮るものが何も無く、いわゆる一本桜と呼ばれるものです。大きく枝を広げた樹形を誇り、満開時にはこんもりとしたピンクの小山を見ているかのようです。
その圧倒的な風格と、神さびた色合いはソメイヨシノにはない優美さをも兼ね備えており、周囲に植えられた菜の花とのコントラストもとても鮮烈な印象を与えてくれます。若いエネルギッシュな印象のサクラで、今後さらに注目を集めることでしょう。
【DATA】
千葉県印西市吉高930
幹周/6.85m
樹高/10.6m
樹齢/300年以上
印西市指定天然記念物
(Profile)
1960年山形県生まれ。巨樹を撮り始めて29年目。出会った巨樹の数は3,400本にのぼり、出版、写真展、ホームページなどにより、巨樹の魅力を発信している。著書に『巨樹・巨木をたずねて』(新日本出版社)などがある。ホームページはhttp://www.kyoboku.com
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