精密蒸留のオンリーワン企業としてさらなる飛躍を目指す――大阪油化工業株式会社 代表取締役社長 堀田 哲平
大阪油化工業株式会社
証券コード 4124/JASDAQスタンダード
代表取締役社長 堀田 哲平
Teppei Hotta
化学メーカーを始め、分野を問わずに多くのメーカーのパートナーとして精密蒸留技術を提供する大阪油化工業。価格よりも実績が重視される分野で、オンリーワン企業として成長を続けている。事業分野の拡大を目指す堀田社長に事業の現状と将来性を聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
蒸留は需要が大きく、手がける企業は少ない
――「精密蒸留」という事業を展開していますが、それはどのような事業なのでしょうか。
堀田 当社は化学業界に属しています。化学の技術には2通りあり、「合成」と呼ばれる新しいものを生み出す分野と、新しく生み出された物質や材料を高純度にするための「精製」という分野です。精製分野で最も需要が大きいのが「蒸留」です。蒸留は沸騰する温度の違いを利用して欲しい成分を取り出したり、不必要な成分を除去する技術です。身近なところでは原油からガソリンを生産することなどに用いられています。
当社は蒸留の分野で、沸騰する温度・圧力・時間の管理を微細にコントロールすることで不必要な成分を除去し、目的の成分だけを回収する精密蒸留事業を手がけています。
――精製事業は儲かるのですか。
堀田 欧米の化学メーカーや医薬品のメーカーは高収益体質です。その儲けの源泉が精製にあると言えます。例えば電気自動車に搭載されている電池の精度を10倍に高める(不純物を減らす)と航空機に載せることができ、さらに10倍に高めるとロケットに搭載できます。精度を高めるほど価格も高く設定できます。このことに欧州勢は50年前に気がつき、米国勢は30年前に本腰を入れ、日本はようやく10年前に気づきました。
合成の分野では、多くノーベル賞受賞者を輩出していますが、精製の分野では100年以上前にキュリー夫人がラジウムの分離に成功してノーベル賞を受賞したのが最後ではないでしょうか。精製はオールドエコノミー、枯れた技術と言われていますが、丁寧な仕事をすると収益に結びつきやすい。それが当社の業績が伸びている要因でもあります。
研究から大規模生産まで一気通貫で技術を提供
――高収益で枯れた技術であれば、顧客が内製化しそうなものですが……。
堀田 そこが面白いところです。特許の有効期間は20年間です。特許を取得したらいち早く商品化して普及させなければなりません。自社の研究者だけで全工程を手がけると時間がかかるので、社外の専門家を活用しようと考えるのです。
付加価値の高い商品であればあるほど、専門家の力を使っていただくことが増えており、特にここ5年、そのような流れが顕著になってきております。
――するとこの業界は、社外の専門家という競争相手が多いのですか。
堀田 そこも面白いところで、実は顧客は価格を重視しているわけではありません。莫大な費用と人員を投入して開発した以上、失敗は許されないので、価格ではなく実績を重視して専門家を選ぶのです。そして、当社には創業以来68年間、精密蒸留一筋に事業を展開し1,000品目、研究テーマを含めれば3,000品目を手がけた信用があります。
当社の強みは一気通貫の技術を提供できることです。まず顧客からパートナーに選ばれると研究段階から関わり、研究に成功すると小規模・中規模生産を受託します。この段階では顧客自身がプラントを作ってもコスト的に合わないためです。大規模生産の段階に入ると、顧客が自前の大規模プラントを作りますが、その際に生産技術の提供やプラントの販売をします。研究段階、小規模・中規模生産、大規模生産まで一貫してやれる技術を持つのは国内では当社だけです。
しかし国内で独占的に手がけているということは責任も重くなります。そこで当社では安全・品質・環境を重視して丁寧な仕事を心がけています。
―― 精密蒸留の技術はどのような分野で使われているのでしょうか。
堀田 現時点では電子材料、液晶、自動車が収益の柱です。次の5年、10年は医薬分野、水処理関係、フッ素素材が柱になるでしょう。これらは世界の人々の生活をより豊かにする分野です。その先は生物関係、農業関係、食品関係が有望です。
先行する欧米の同業と友好的な関係を築く
―― 今後は精密蒸留の技術を提供する分野の拡大を目指すのでしょうか。
堀田 そうですね。お取引先は化学メーカーだけでなく、鉄鋼、繊維、機械、食品、医薬品と幅広く、基礎研究を行っている会社がお客さまになります。結果的にニッチ分野でのトップメーカーや、各分野のトップ3になりますね。既存設備の性能を上げることで、より精密性の高い仕事を可能にし、生産できる領域をさらに増やしていくつもりです。
また、引き合いも増えているので、今年稼働する新プラントに加え、段階的にプラントの数を増やしていきます。海外展開の加速や、中長期的にはM&Aも検討していきます。
―― 欧米の同業会社との競合はないのですか。
堀田 その逆で、私は先行する欧米の同業会社に教えを乞うています。各国の同業会社ですみ分けがあるので競合はしません。むしろ当社が育てば、欧米の同業会社の顧客が日本に進出する時の窓口になるし、その逆もあるでしょう。この業界はIT業界などとは異なり、勝者が利益を総取りするわけではありません。
――上場した理由を教えてください。
堀田 IPOの理由は3つあります。精密蒸留の分野は成長分野なので一気に資金を投入して成長のチャンスを生かしたかったこと、IPOにより社会的な信用を得て従業員に安心して働いてもらうこと、ファミリーカンパニーから脱して公的な存在となり、より透明性を高めたいということです。
――株主還元はどう考えていますか。
堀田 成長投資と株主還元を両立させて、配当性向を今後5年で30%強まで高めたいですね。