障害者雇用のマーケットをビジネススキームで成長産業に――ウェルビー株式会社 代表取締役社長 大田 誠
ウェルビー株式会社
証券コード 6556/東証マザーズ
代表取締役社長 大田 誠
Makoto Oota
障害者自立支援法施行により、2006年から始まった「就労移行支援事業」。株式会社の参入が認められたものの、事業者の主体は社会福祉法人が多く、十分な就労支援ができない実態も散見される。ウェルビーの急成長は、他の産業では常識である地道な営業活動と信頼醸成、業務のマニュアル化だった。
取材・文/大坪 和博 写真撮影/和田 佳久
創業当初からトップランナーを目指す
――まずは、御社のビジネスの概要について教えてください。
大田 私は、現在ジャスダックに上場しているバイオベンチャー・テラ株式会社で経営陣として、がんの治療法の開発に携わりました。そこでがん治療に取り組む患者様と向き合うことに大きなモチベーションを感じるようになり、いつしか自分がオーナーシップをもって起業する時には、サポートが必要な人たちを支える事業をやりたいと思うようになりました。いろいろ考えた末、ドクターがメインステージに立つ医療の隣接業界である福祉で起業しようと考え、いろいろと学んでいくうちに、精神障害や発達障害の方々をサポートする就労移行支援事業が目に留まりました。
就労移行支援事業は、2006年に施行された障害者自立支援法のもとで始まった事業です。それまでは、社会福祉法人が授産施設や福祉工場として運営していましたが、障害者自立支援法によって、障害者の一般企業への就職をサポートする「就労移行支援」という新しいサービスが始まり、株式会社も参入できるようになりました。しかし、私が事業構想を模索していた当時は、業界大手といえば、株式会社ウイングル(現在の株式会社LITALICO)が、10数箇所の事業所で展開していた位でした。就労移行支援事業でトップランナーに立てる。私はそのように確信して、ウェルビーを創業することを決意しました。
そして、2012年4月にウェルビー西船橋駅前センターを開設した後、同年11月に、新越谷、松戸、所沢と立て続けにセンターを開設しました。「30センターあるような気持ちで運営していこう。」創業当時から、私は、自分自身はもちろん社員にも、そのように言って鼓舞してきました。そして、現在では18歳以上の精神障害や発達障害をお持ちの方向けの就労移行支援事業と、発達障害をお持ちのお子様向けの児童発達支援事業所、放課後等デイサービス事業の運営を行う療育事業の2つの障害福祉サービス事業を展開し、全部で79拠点(2017年11月現在、仮オープン含む)を運営できる企業規模に成長しました。
地域ネットワークと医療機関との連携で高い信頼性と定着率を実現
――就労移行支援事業への民間企業の参入から10年が経ち、事業者も増えていますが、御社の強みはどういったところにありますか?
大田 当社は、就労移行支援では後発であることから、それまでの事業者とは違うことをしないと差別化できないと創業当時から考えていました。そこで、営業活動を積極的にすることにしました。利用者様は地域の教育施設や福祉施設、行政機関などいろいろな担当の方にサポートされて生活されています。そうしたところを回って人脈や地域ネットワークを作ることに注力したのです。また医療機関との連携も積極的に行いました。大半の事業者では、このような営業活動はしていないそうです。ある就労移行支援事業所では、一度も企業を訪問したことがないとお聞きしました。このようなことは当社ではあり得ません。その結果、当社のセンターは、高い信頼性と定着率を実現し、その実績が評価され、新たな利用者様が集まってくるという、従来の事業者にはない成長ビジョンを描くことができました。それはまさに、手つかずの優良なマーケットを、マーケティングの側面で切り拓いていくビジネススキームで、成長産業へと転換していくことだったのです。
さらに、当社の強みを支える基盤として、どのセンターでも均一な品質のサービスが提供できるように、業務マニュアルを作成し、全従業員にテストをしています。そして、マニュアル通りにきちんと業務ができているか、マニュアル監査も実施しています。このマニュアルは、毎月現場の声を参考に改訂しています。常により良いサービスを追求し、それを全従業員が共有し遵守する仕組みが出来ているのも、当社の強みの源泉なのです。
持続的な拠点拡大と定着支援サービス強化で着実な成長を目指す
――御社の事業を取り巻く環境についてはどう見ていますか?
大田 就労移行支援事業や療育事業では、数年のうちに事業所ごとに1人以上のサービス管理責任者・児童発達支援管理責任者の配置義務の猶予期間が廃止され、今後拠点展開にあたっては各社とも必要な資格者を確保することが必要となります。幸い当社は、社内スタッフからの育成・確保が可能であることから、持続的な拠点拡大を図ることができます。
さらに、2015年に厚生労働省は就労移行支援事業のサービス報酬改定では、就労後の定着実績に応じた加算割合を増加し、基本報酬を引き下げました。このような改定の方向性は今後も強まると思われます。このような報酬体系の改定も、実績・ノウハウ・体力がある優良事業者が有利であり、当社にとっての追い風となります。
障害者の就職環境は、法定雇用率の段階的な引き上げからも分かるように、政策的にも追い風です。まだまだ拡大余地があるマーケットなので、着実に拠点を増やしていきたいと考えております。
――株主還元について教えてください。
大田 当社は株主の皆様に対する利益還元を最重要の経営課題と考えております。そして、上場後の最初の決算となる2018年3月期では、目標配当性向を20%とさせて頂きました。上場した以上、株主の皆様が期待される利益を出し、利益還元としての配当を実施するのは当然だと考えております。将来的にも、業績に応じた適正な配当を継続的に実施しく予定であります。今後ともよろしくお願いいたします。