マニュアル制作のワールドリーディングカンパニーへ──グレイステクノロジー株式会社 代表取締役 松村 幸治
グレイステクノロジー株式会社
証券コード 6541/東証マザーズ
代表取締役
松村 幸治 Yukiharu Matsumura
IT関連メーカーや大手メーカーの製品マニュアルの作成や翻訳を手がけるグレイステクノロジー。コンサルティングを含んだテクニカルライティングや、クラウド型のマニュアル基幹システムなど、単なるマニュアルの作成や翻訳にとどまらない独創的なサービスを提供。旧態依然としたマニュアル業界の変革を図っている。
取材・文/上條 昌史 写真撮影/和田 佳久
製品マニュアルの分かりにくさを解消する「用語集」が原点に!
――創業の経緯を教えてください。
松村 語学系の学校を出てから翻訳会社に就職し、メーカーの製品マニュアルの翻訳を任されたのですが、その内容の分かりにくさに驚きました。当時、海外メディアから「製品は一流だが、マニュアルはジョークだ」と揶揄されていましたが、それも納得できました。
今も大半がそうなのですが、日本のメーカーは社内にマニュアルを統括する部署がなく、各部門の技術者が必要に迫られ、仕事の片手間に作成しています。当然、用語や内容に統一感もなければ、完成度にもバラツキがあります。
そこで自分でマニュアルを分かりやすく書いたところ、メーカーから非常に喜ばれ、これはビジネスになると思ったのですが、『余計なことをせず、翻訳だけしていればいい』と会社に却下され、ならば起業しようと決意したのです。
―― 5万語の「用語集」を手書きで作成されたという話を聞きました。
松村 「用語集」とは、マニュアルを作成する前に、文書を構成する単語の使い方の定義を行うことです。たとえばクルマのマニュアルを作成するとき、現場の技術者は「ハンドル」「ステアリング」など、同じ装置のことを違う言葉で表現します。用語のルールが統一されていないと、マニュアルを読むユーザーは混乱します。
当時はパソコンも普及していなかったため、数百ページのマニュアルを借りてきて、約2週間かけて全ての出現用語を書き出し、専用の用語集を提出しました。現在この手法は、自動的に用語が統一できる「用語フィルター」というシステムに進化していますが、企業ごとの「用語集」を作るという姿勢は、今も当社のベースになっています。
マニュアル制作のコストを4分の1に削減
―― 事業内容は大きく2つあります。まず「MOS事業」とは?
松村 MOS(マニュアルオーダーメイドサービス)事業とは、各種マニュアルのテクニカルライティングと翻訳の受託業務のことです。メーカーは製品開発から市場リリースへのリードタイムを短縮する傾向があり、なるべく効率的にマニュアルを制作したいと考えています。一方ユーザーは、容易に操作できるよう、マニュアルの分かりやすさをメーカーに求めます。その結果、両者の間には大きなギャップが生まれています。
当社が担当したあるメーカーでは、マニュアルが分かりにくいために、ユーザーからの問い合わせ電話が数万件に及んだり、そもそも製品の出荷にマニュアル制作が間に合わなくてマニュアルなしで出荷し、業務に支障を来しているというケースもありました。
MOS事業では、顧客の社内にある情報を収集・分析し、“この会社にとって本当に必要なマニュアルとは何か”という視点でマニュアル制作をコンサルティング、ゼロベースからテクニカルライティングを行います。ちなみに当社では創業当初から、白物家電のマニュアルには手をつけず、B to Bの製品に特化。その中でも操作マニュアルより、ボリュームが大きく専門性の高い、メンテナンス系のマニュアルを得意としています。
――もう1つの事業が「MMS事業」で、こちらは急成長しています。
松村 MMS(マニュアルマネージメントシステム)事業は、クラウド型のマニュアル企画・構成、制作、管理サービス「e-manual」を提供し、月額利用料を受領するストック型ビジネスです。簡単に言うと、マニュアル作成のためのテンプレートを用意、ウェブブラウザ上でテキストを入力するだけで、自動的に用語が統一され、簡単に電子化されたマニュアルが制作でき、必要に応じてオンデマンド印刷のオーダーも可能になるというサービスです。
当社が手がけたあるIT企業では、この「e-manual」を導入した結果、人件費や機械維持費、固定費、倉庫費や印刷費が削減され、年間20億円以上のコストダウンが実現しました。当社のマニュアル制作ノウハウを利用すれば、平均で4分の1程度まで費用削減が可能で、今後は「日本語の執筆→英語への翻訳→多言語への展開をe-manual で」という一連の流れをパッケージ化し、訴求していきたいと考えています。
――競合も増えていますが、どのように差別化を図っていますか。
松村 当社のビジネスモデルの強みは、付加価値の高いコンサルティングなどの業務は自社で行い、その他の実制作業務は、プロ意識の高い良質なスタッフに外注。高いクオリティのマニュアルをファブレスで制作する体制を確立し、労働集約型のマニュアル制作から脱却していることです。
そもそも私たちは、マニュアルとはメーカーとユーザーをつなぐ重要な“コミュニケーションツール”であると捉えています。最適なマニュアルの作成は、コスト負担を軽減させるだけでなく、メーカーとユーザーの非効率性を改善し、製品価値やユーザビリティを高めるもの。そうした思想と取り組みの姿勢が、他社と一線を画していると思います。
――上場の理由と、今後の成長戦略を教えてください。
松村 今後は産業機械等の国内大手メーカーを中心に、コンサルティング営業を強化。ウェブ広告機能やECサイトとの連動など、「e-manual」の機能向上や新サービスの展開を図りながら、利益率の高いMMS事業の売上を拡大し、安定した収益基盤を構築したいと考えています。上場の理由は、知名度や社会的信用を向上させること、優秀な人材を確保・育成することにあります。目標は、メーカーにとって必要不可欠な存在となること。上場後を第2創業期と考え、蓄積したノウハウを活かしながら、さらなる飛躍をめざします。