法人営業のムダをなくすツールを 提供し、顧客の営業効率化を支援──株式会社イノベーション 代表取締役社長 富田 直人
株式会社イノベーション
証券コード 3970/東証マザーズ
代表取締役社長
富田 直人 Naoto Tomida
テレマーケティング事業から始まった「イノベーション」は、「顧客ニーズと競争環境の変化」を理由に創業事業から撤退。一時的に売上高は減少したが、オンライン事業に特化し、高収益体質に生まれ変わった。富田直人社長は今後、どのように成長させていくのだろう。創業時の思いから成長戦略までを聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
創業事業から撤退を決断し、オンライン事業にシフト
――2000年12月にイノベーションを設立し、02年2月から法人向けテレマーケティング事業を始めていますね。
富田 当社は「ビジネスの中に溢れているムダをなくす」サービスを提供しています。テレマーケティング事業では「法人営業のムダ」に着目しました。取引の無い企業に電話を掛けて訪問の約束を取る「テレアポ」は、社員にむやみに電話をさせても成果が上がらず時間のムダになります。そこで私は前職(リクルート)で成果を上げた「テレアポ」のノウハウが生きるテレマーケティング事業(顧客企業に代わってアポを取る事業)を始めたのです。また02年12月から、B to B利用が見込めるリスティング広告(検索連動型広告)代理店事業を始めました。
――その2つの創業事業を2015年度中までに撤退・譲渡しましたが、大きな決断が必要だったのでは?
富田 テレマーケティングは景気の波の影響を受けやすく、継続性が高くありません。以前に当社売上と株価指数の動きを比較したことがありますが、見事に2カ月遅れで株価に連動していました。これでは売上を安定させることができません。そこで、07年にテレマーケティングのサポートという位置づけで、インターネット上に法人向けIT製品の比較・資料請求サイト「ITトレンド」を立ち上げたところ、多くのお客さまから好評をいただきました。続く08年には、人事・総務部門向けアウトソーシングサービス等の比較・資料請求サイト「BIZトレンド」をオープンしました。
その一方で、テレマーケティング事業はリーマンショックや東日本大震災後に売上が大きく落ちました。150人規模のコールセンターを20人規模まで縮小したところ、利益が出る体質に変わったのですが、今後の成長が期待できず、続ける意味があるのかと悩みました。その時、P.F.ドラッカーの「成果をあげる者は、新しい活動を始める前に必ず古い活動を捨てる」(『経営者の条件』ダイヤモンド社刊)という教えに出会いました。こうして、15年にテレマーケティング事業から撤退し、リスティング広告代理店事業を譲渡しました。
――法人営業には①認知、②見込み顧客情報獲得、③見込み顧客育成、④提案・クロージング、⑤アップセル・クロスセルの段階があるそうですが、オンラインメディア事業では①と②をカバーしました。③④⑤をカバーするサービスはありますか?
富田 それが「セールスクラウド事業」で、中核を担うサービスが「List Finder(リストファインダー)」です。これは購入意向の高い見込み顧客の発見を支援する法人向けマーケティングオートメーション(MA)ツールで、見込み顧客一元管理、一括メール配信、自社サイト来訪個人解析、自社サイト来訪企業解析、フォーム作成の5つの機能を備えています。これにより「一気通貫サービス」を提供しています。
事業転換で高収益体質に生まれ変わった
――2つの創業事業から撤退・譲渡したことにより、16年3月期の売上高は13億300万円に減りました。17年3月期はどうなりますか。
富田 17年3月期の売上高予想は11億6,400万円(この期から売上高はオンラインメディア事業とセールスクラウド事業だけになる)です。16年3月期よりも10%程度の減収ですが、オンラインメディア事業とセールスクラウド事業の売上高だけで比較すると、15年3月期 7億2,000万円、16年3月期 9億1,400万円なので増収になります。また当期純利益は16年3月期の1,300万円から17年3月期は1億2,100万円に増える見込みです。
――社会は「クラウド化」に向かっています。これは御社にも追い風ですか。
富田 「クラウド化」の流れは、当社にとって追い風です。この2~3年で社会は大きく変わっています。急激に伸びている勤怠管理システムを提供する会社を例に取ると、以前はパッケージソフトが500万円で販売されており、体力のある大企業しか利用できませんでした。しかし今では、クラウド化により1アカウント月500円といった形で使えるようになり、従業員2人の会社でも使えるため、市場が急激に拡大しています。
販売側はクラウド化により1社から毎月数千円、数万円の売上しか得られなくなりましたが、膨大な利用者増が見込めます。しかし、テレアポそして訪問営業という旧来の営業方法では割に合わず、効率的かつ自動的に見込み顧客を集めて契約・販売する仕組みがないと利益になりません。これは見込み顧客育成以降(前述の③④⑤に該当)も同様で、数アカウントを利用するお客さまを獲得するために何カ月もかけることはできません。
そこで「List Finder」を使って定期的にメール配信をしながら動きを見て最適なタイミングで営業に引き継ぐことが必須となるのです。
――成長戦略について教えてください。
富田 「ITトレンド」「BIZトレンド」のプラットフォームを生かしてサービスカテゴリー数の拡大を図ります。それは人材・金融・医療・教育などの分野を想定しています。また、日経BP社との連携を強めて、メディアとのタイアップ効果を高めるとともに、「List Finder」では、名刺管理の「Sansan(サンサン)」との機能連携や製造業向けインターネットメディアの「Aperza(アペルザ)」とも提携しています。アペルザとの提携では製造業向けカタログポータルに出展する企業に対してMAを提供します。
この業界はまだ「夜明け前」の段階にあります。まずは中堅・中小企業をターゲットとした分野で圧倒的な一番を取れる様に、積極的に投資を行い、事業を成長させることが株主様の利益に繋がると考えています。