被害額は年間300億円に迫る勢い。急増する「SNS投資詐欺」の巧妙な手口とその対策
架空の投資話を持ちかける、「SNS投資詐欺」の巧妙化が止まらない。なかでも、著名人の画像を悪用したケースで被害が増えており、事態は深刻だ。著名人を装って1対1のLINEで商談に及んでくるだけでなく、AIを活用し本人の声でリアルタイムの通話まで実現してくるというから驚きだ。この投資詐欺に、自身も「著名人」として肖像権を悪用された経緯から、YouTubeやメディアで警鐘を鳴らす経済アナリストの森永康平さんに、詐欺に騙されないためのアドバイスをもらった。
構成/岩川悟 取材・文/吉田大悟 写真/石塚雅人
巧妙な手口で「著名人本人と話している」と信じ込まされる
——SNS投資詐欺とはどのようなものであるか、概要について教えてください。
森永康平:簡単にいえば、有名投資家や芸能人など、著名人の画像を無断で使用し、SNSで投資の勧誘を行う詐欺を指します。よくある手口は、InstagramやFacebook、X(旧Twitter)などのSNSで著名人の偽アカウントを運用し、投資の有益情報を教えてくれる——いわゆる勉強会のようなコミュニティの存在を発信し、LINEグループに誘導して投資詐欺を行うというものです。また、著名人の画像を使って、SNSのWEB広告で周知を図ることもよくあるパターンですね。
警察庁の集計によれば、2023年度の被害額は約277億9,000万円にものぼるといいいます。これはあくまで、都道府県警が受理した被害届をもとにした金額ですから、被害の実態はさらに大きいと見て間違いないでしょう。なぜなら、「騙された」ことを恥じる思いから、泣き寝入りするケースも多いからです。2024年に入ってからは、さらに詐欺被害が激増しています。「新NISA」を機に投資をはじめた人が増えているため、詐欺師もいまの状況を「稼ぎどき」と捉えているはずです。
——詐欺師が仕掛ける罠はどんどん巧妙化しているのだとは思いますが、そこには、「信じてしまうなにか」があるのでしょうか?
森永康平:「これは詐欺かもしれないぞ」と最初はみんな疑っているのです。しかし、半信半疑な状態でLINEのチャットグループに入ってみると、すでにチャットグループには100人以上のメンバーがいて、そのグループを運営するとされる著名人(偽者)を中心に投資について語り合っています。
「これは本物なのでしょうか?」と質問すれば、「もちろん本物ですよ!」とメンバーが回答したり、「先生に失礼ですよ」と嗜められたり、会話が成立してしまうのです。それらのやり取りによって、「あ、これはちゃんとしたグループだ」と信じる人が出てしまうのですが、いうまでもなくそこにいるメンバーはすべてサクラです。
さらに、もちろん偽物ですが、著名人が本人証明として運転免許証の画像をアップしたり、その著名人の声をAIに学習させてつくったメッセージ動画を公開したりします。著名人の様々な動画を学習させることで、AIでリアルタイムの通話もできてしまうので、そういった技術を知らないと信じてしまうだろうなと思います。
そうして信じ込ませたうえで、著名人(偽者)みずからLINEで1対1のやりとりに持ち込み、架空の投資商品を紹介して口座に資金を振り込むよう勧誘してきます。あるいは、運営会社の営業スタッフを名乗る人物とリアルで商談に持ち込む場合もあります。振り込んでしまえば、以降は連絡が取れなくなっておしまいです。グループからも締め出されて、その後は連絡の取りようがありません。
「森永康平」を装う詐欺師グループとのコンタクト
——森永さん自身も、「偽の著名人」として、不名誉な起用をされているそうですね。
森永康平:被害額ベースでいうと、わたしをかたった手口でこれまでに約5億円、父の森永卓郎でこれまでに約10億円の被害が出ており、腹立たしい限りです。
わたしは以前から、個人的な興味で投資詐欺を監視しているのですが、著名人を装ったSNS投資詐欺が出はじめた頃は、どういうわけか世界的に有名なアニメ監督・宮崎駿さんの偽者が登場するなど、まったく投資と関係のない人選がされていたのです。詐欺師の正体は外国人であることが多く、誰を起用するのが適切であるか理解できていなかったのでしょう。
それが次第に、いかにも「それらしい人」になりすますようになり、実業家の前澤友作さんや堀江貴文さんをかたったあたりで、世間的に「なりすまし詐欺」として認知されはじめました。そこから少し時間が経過し、いまは経済系のコメンテーターになりすますのが効果的だとされているようです。詐欺師は新しいトレンドやテクノロジーを活用するだけでなく、スピーディーにトライ&エラーを行うため、手口が効果のあるものに収斂されていきます。そうして手口が洗練されることも、被害者が増加する要因です。
残念ながら、わたしが警察に訴え出ても「肖像権の侵害」としてしか取り扱ってもらえません。また、SNSの運営企業も広告審査をAIで行うため、暴力やセクシャルな描写に対しては規制できても、「ただ広告に著名人が載っているだけ」では規制できないないのです。それらが要因となり、「なりすましアカウント」に対処し切れていないのが現状です。
そうはいっても、毎日のようにわたしのSNSには「森永さんを信じて投資したのに騙された!」「お金を返してくれ!」といった声が届くので、なんらかの解決を図る必要があります。そこで、警鐘を鳴らすアクションとして、わたしのYouTubeチャンネル「森永康平のリアル経済学」では、SNS投資詐欺への潜入調査を行っています。
——とても興味深く拝見させて頂きました。森永さん自身が偽名を使い、「森永康平」をかたるSNS投資詐欺にわざと引っ掛かってみる潜入レポート動画ですね。なぜ、そこまで踏み込んだ行動を起こしたのでしょうか?
森永康平:ただ「詐欺に騙されないでください」と伝えても、それでは自己満足に過ぎないと思ったのです。被害者だってわざと騙されているわけではありませんよね? 誰だって詐欺を警戒したうえで騙されているのです。そうであれば、詐欺師の手口をそのまま収録してYouTubeで公開すれば、有効なケーススタディになると考えたわけです。
実際に視聴者の方からは、「いま自分がLINEでやり取りしている流れが、まさに動画で紹介された手口と同じだったので詐欺だと気づけました」というコメントを多数もらえているので、やってよかったし、有効な手段であったと実感しています。
——動画では、LINE上のやり取りだけでなく、投資詐欺の営業担当とも何度かリアルで対面されていますよね。実際に対面してみて、それら詐欺師の印象はどうでしたか?
森永康平:いわゆる「反社」的な人が出てくることはなくて、むしろ物腰柔らかな「普通の営業マン」という印象でした。また、こちらから疑念や揺さぶりをかけても、こっちをいいくるめる営業トークを事前に準備していることが感じられました。
例えば、「あなたの会社は金融取引業として金融庁に登録されていませんよね?」と伝えても、「いえいえ、金融庁もお役所仕事ですから、WEBにすべての事業者は掲載されないんですよ」と返してきますし、「おすすめされたファンドはNISA対象なんですよね? NISAの商品リストに掲載されていませんよ?」と聞けば、「本当に優れた商品は、投資会社が直接紹介するものなんです」と、いかにもそれらしいことを返してきます。もちろん、それらは真っ赤な噓です。
そのため、実は「まったく知識のない初心者」よりも、「中途半端に知識がある人」のほうが詐欺に騙されやすいのです。前者の場合、詐欺師がいくら「おいしい話」をしても、どう「おいしい」のか理解が難しいのですが、浅く広く知識があると、疑念をすべて噓で解決されてしまいます。ですから、ある程度の投資キャリアがある人も、十分な注意が必要だと考えます。
最善の詐欺対策は「自分の口座」からお金を移さないこと
——それなりに注意していても騙されてしまう被害者が後を絶たないわけですが、SNS投資詐欺に騙されないためにはどうすればいいのでしょう?
森永康平:SNS投資詐欺の被害者の方にも直接話を聞いたのですが、多くの人が「SNS投資詐欺や著名人のなりすましも知っている」といい、「騙されるほうがおかしい」とさえ思っていたというのです。それなのに、「自分に舞い込んできた話は詐欺ではない」「今回は本物だ」となってしまう。これはいわゆる、「正常性バイアス」が影響しています。正常性バイアスとは、異常事態が起こっても、ストレスを回避するために「正常の範囲内だ」と信じ込もうとする心の働きです。
詐欺というのは、まさにそうした心理を突くものです。疑念があっても、先に述べたAIによる偽の「本人動画」や巧妙なトークで疑念の外堀を埋められてしまい、信じたい気持ちが優ってしまうのです。「元本保証を金融機関以外が語るのはNGなので、『損しない』とか『絶対儲かる』といったら詐欺確定です」など様々なアドバイスも行ってきましたが、人間の心のどこかに「信じたい」という心理がある以上、言葉巧みに騙されてしまう人が出てきてしまうのでしょう。
そこで、最近ではマインドや知識でアドバイスするのではなく、「ルール化」を提案しています。それは、「自分のお金は自分の口座から移さない」というルールです。必要な現金は銀行口座に入れますし、投資資金は証券口座に入れますよね? その「自分の口座」以外の、「他人の口座」には絶対にお金を移さなければ、詐欺に遭うこともないわけです。なぜなら、あらゆる投資詐欺の手口は、被害者の口座から詐欺師の口座にお金を移そうとするからです。
ですから、詐欺に騙されないためにも、投資がしたければ自分の証券口座から直接投資できるものだけにしてください。どんなに魅力的な投資でも、「誰かの口座」にお金を移すのなら詐欺だとみなしていいと思います。
——それを徹底すれば、詐欺に引っ掛かることはなさそうです。
森永康平:ぜひ徹底してほしいですね。詐欺師というのは、時代に合わせながら手を変え品を変え、新しい手口を次々と生み出していきます。最近では、「書籍の送りつけ」による新たな詐欺もあるほどです。例えば、買った覚えがないのにわたしや父(森永卓郎氏)の書籍が送られてきて、それを開封すると、投資に関するLINEグループへの特別招待がQRコードで特典として挟まれているのです。もちろん、これは詐欺です。
2024年5月に「情報流通プラットフォーム対処法」が国会で可決されたことで、今後はSNSのプラットフォーマーも「なりすまし」や「SNS投資詐欺」への対応を強化せざるを得ません。そうした流れを受け、すでに新しい手口が生まれているのです。
また、新紙幣の発行にともない、「旧紙幣が使えなくなります」といってタンス預金を投資にあてさせようとする投資詐欺もSNSを中心に出回っています。これも、「他人の口座に振り込む」手口である以上、詐欺だと疑って関心を持たないようにしてください。
森永康平(もりなが こうへい)
1985年生まれ、埼玉県出身。金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト。明治大学経済学部卒業。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして、日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。さらにインドネシア、台湾などアジア各国にて法人や新規事業の立ち上げを経験し、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在は国内外のベンチャー企業の経営にも参画する。著書に『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』(あさ出版)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(KADOKAWA)など多数。また、YouTubeで「森永康平のリアル経済学」「森永康平のビズアップチャンネル」を配信中。